’11年10月のツーリング
未明まで激しく窓を叩いていた雨は東の空へ去りつつある。
まだ濡れた路面、滔々と流れる雲、早朝の街に生暖かい風が吹き抜けて行く。気圧が上がっていくのを肌で感じながら、私は全身に残る重い疲労感を押し殺した。胸騒ぎがする・・・。こんな日には何かが起きると私の本能が囁いている。しかし、いかなる状況下でもミッションを遂行するのがプロフェッショナルというものだ。素早く支度を終え、私はマシンに跨った。4サイクルDOHC、12200回転で150馬力を叩き出す750cc
のエンジンは、力強い咆哮と共にコンクリートジャングルへと滑り出した。
街は薄気味悪いほど静まり返っていた。いつもは車がひしめく国道も、閑散とした空虚をたたえている。それはまるで、目に見えない強大な力が、私を運命の場所へといざなうかのようだった。例の場所には既に何名かのクライアントが到着していた。そこは今までの空虚が嘘のような賑わいを見せている。私はマシンに跨ったまま停止し、あと一歩前へ出ようと脇にあった1メートルほどのポールに手を掛けた。そのとき遂に、私の胸騒ぎは現実のものとなった。風速50メートルにも耐えると言わんばかりの、屈強な立ち姿のポールはその実、ムーミン谷のニョロニョロ並みに根本からクニャっと曲がったのである。地球という惑星が、その渾身の力を込めて私とマシンに1Gという衝撃で襲い掛かって来た。全身を戦慄が走った。なす術もないまま私の身体は宙を舞い、驚愕の、禁断の、凄まじい、えっと、えっと、
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あ~あ、立ちゴケしちゃったんですかぁ?
何やってるんですか、朝からぁ。
カウリングブレース折れちゃったし、ま、何とかなるでしょ。
針金でこうやって、
ここに穴開けて・・・
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「・・・・・・・。」
応急修理の間、みなさんのマスィーンをご覧いただきながらご歓談ください。
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O氏の400の衣を着たRG500ガンマと新星Rちゃんの最新型GSX-R1000
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S子ちゃんに回し壊されそうなニンジャ250RとK君のセカンドマシンXR250。そして10年以上腐ってて奈落の底から蘇ったM田のポンコツBMW
R65。
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最後に、パワーズ社長の1970年式W1SA。正真正銘のポンコツ
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そしてこれが、さっき完成したポンコツ。
見ず知らずの方が、気の毒そうな表情で恵んでくださったタイラップが、いい仕事をしています。この針金は、M田が自分のR65 の”万一”に備えて用意していたもの。私は昨日、M田と社長を「ポンコツ兄弟!」と馬鹿にしたばかりだった。今、めでたくポンコツトリオが完成したわけです。うふん。
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じゃ、集合写真は嘲笑のポーズでお願いします。って、確かにそう言いましたが、こんなに朗らかに嘲笑を飛び交わしていただいちゃって。お譲ちゃんたちまで。うう。
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ブレースと一緒に折れた心にも、針金をください。
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さ、気を取り直して出発です。今日は箱根新道から芦ノ湖スカイライン、箱根スカイラインを経由してとりあえず御殿場へ。
国府津で時間浪費しましたからどんどん行きましょう。
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ところが、箱根スカイライン料金所で、ポンコツR65がやって来ない。きっと空中分解したに違いないと噂していたら、20分後に単気筒になって登場。
片方のプラグが点火しないらしい。御殿場までは下りだから途中で止まっても大丈夫だってことで強制的に出発。
R65不調のまま、御殿場市内に到着してすぐに焼肉屋さんでお昼ご飯にしました。
なにしろパワーズのポンコツがみなさんにご迷惑をおかけして、一向に進まない ツーリングになっておりましたので、この時点で富士山方面に昇るのは断念。
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ちっとも走ってないけど、焼肉で精力付けていただいて、ここから帰り道になります。
ほんとうにスミマセン。
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Rちゃん、美味しいですか?葉っぱ。「んめぇぇぇ~」O氏、奥で気の毒そうな顔するのやめてください。
さて、ご飯の後もR65の修理は続きますが、回復の兆しは見られません。
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「そんなポンコツ捨ててしまえ。」とも思いましたが、そんなことを言うと「付けてやった針金返せ!」 と言われるのは目に見えていたので、ここはむしろポンコツ同志として、みんなを巻き込んで応援の構図をこしらえてみました。
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しかし、応援もむなしく結局R65は片排のまま、乙女峠から箱根街道、R1を経て帰路につくことに。もうちょっとで意識不明のエンジンを回しながら瀬戸際で苦戦するR65を尻目に、みなさんはスルスルと車をすり抜け温泉観光地を通過。途中社長のW1も不調を訴えましたが、なんとか持ち応え無事に西湘バイパス橘パーキングエリアに到着。
みなさんには、パワーズがご迷惑をおかけしてろくに走れなかった今回のツーリング。もう来ない!なんて言われないよう、フレンドシップを高めるラインダンスで締めくくります。
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こうやって手をつないで、
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じゃ、右足上げまーす。
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はい、ポーズ!
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もう少し足高く上げてください。
はい、お願いしま~す。
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ツーリング帰りのライダーやドライブ帰りのファミリーで賑わうパーキングエリア。
冷たい目線を感じながらのラインダンスは、それはそれは恥ずかしい。
フレンドシップ向上のために犠牲にするものって、羞恥心だったんですね。
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今日、皆様にご迷惑をおかけしたポンコツトリオ。
手前から、
アーン
ポーン
ターン
です。
街には夜のとばりが降りていた。今日のミッションは厳しいものだった。あのポールは手強い相手だった。ポールめ、ヤツは恐らくフランス対外治安総局か或いは軍事偵察局が送り込んだ傭兵だったに違いない。私の鍛え抜かれたスキルがなかったら、命さえ危うかった。
「いやいや、立ちゴケですから。」
「うるさいぞ、M田。」
「なにおー今度立ちゴケしても直してやらないぞ。」
「あ、ごめんなさいM田さん。M田さぁーん?」